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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)868号 判決

第一事件原告

山崎みゆき

第二事件原告

山崎一亮

ほか一名

第一事件被告(第二事件被告)

尾崎喜久子

ほか一名

主文

一  第一事件被告(第二事件被告)らは、第一事件原告に対し、各自金七八〇七万五九七四円及び内金七〇九七万五九七四円に対する昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  第二事件被告(第一事件被告)らは各自、第二事件原告らに対し、各金八〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  第一事件原告及び第二事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一事件原告と第一事件被告(第二事件被告)らとの間に生じた分は、これを七分し、その二を第一事件原告の、その五を第一事件被告(第二事件被告)らの各負担とし、第二事件原告らと第二事件被告(第一事件被告)らとの間に生じた分は、これを九分し、その四を第二事件原告らの、その五を第二事件被告(第一事件被告)らの各負担とする。

五  この判決は、主文第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実

(以下第一事件原告山崎みゆきを「原告みゆき」と、第二事件原告山崎一亮を「原告一亮」と、第二事件原告山崎勝子を「原告勝子」と、第一事件被告(第二事件被告)尾崎喜久子を「被告尾崎」と、第一事件被告(第二事件被告)黒田保正を「被告黒田」とそれぞれ略称し、被告尾崎及び被告黒田を合せて「被告ら」ともいう。)

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件関係)

一  請求の趣旨

1 被告らは、原告みゆきに対し、各自金一億〇九四九万二一一一円及び内金九九五九万二一一一円に対する昭和六二年一一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告尾崎の答弁

1 原告みゆきの被告尾崎に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告みゆきの負担とする。

(第二事件関係)

一  請求の趣旨

1 被告らは各自、原告一亮及び原告勝子に対し、各金一五〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告尾崎の答弁

1 原告一亮及び原告勝子の被告尾崎に対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告一亮及び原告勝子の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件関係)

一  請求原因

1 交通事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 昭和六二年一一月二八日

(二) 発生場所 神戸市西区伊川谷町潤和一一五三番地先の県道 神戸明石線(以下「本件事故現場道路」という。)上

(三) 被告車 被告黒田運転の普通乗用自動車

(四) 原告車 原告みゆき運転の自動二輪車

(五) 事故態様 被告車が、本件事故直前、右事故現場道路を東方向から西方向へ走行し、右事故現場付近に至り、右道路の路外左側(被告車の進行方向を基準とする。以下同じ。)にある喫茶店に入るために左折したところ、折から、原告車が、被告車の左後方から右道路を同一方向に直進走行してきたため、被告車と原告車とが衝突し、原告車が転倒した。

2 被告らの責任原因

(一) 被告黒田は、被告車を運転して本件事故現場道路の路外へ出るための左折を行うに当り、被告車をあらかじめ道路の左側に寄せたうえ、左折の合図を行う等の注意義務があるのにこれを怠り、左折の合図をまつたく出さず、被告車と左側ガードレールとの間隔を大きく空けたまま、被告車を左端に寄せることなく、左後方の安全を確認せずに突然左折を開始した過失により、本件事故を発生させた。

(二) 被告尾崎は、本件事故当時被告車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(三) よつて、被告黒田には、民法七〇九条に基づき、被告尾崎には、自賠法三条に基づき、両名連帯のうえ、原告みゆきが本件事故により被つた後記4主張の損害を賠償する責任がある。

3 原告みゆきの受傷内容、入院期間及び後遺障害の内容・程度

(一) 原告みゆきは、本件事故により、第四胸髄損傷、両下肢完全麻痺(体幹機能障害)の傷害を負つた(以下「本件受傷」という。)。

(二) 原告みゆきの本件受傷による入院期間は、次のとおりである。

(1) 明舞中央病院

昭和六二年一一月二八日から同年一一月三〇日までの三日間

(2) 国立神戸病院

昭和六二年一一月三〇日から昭和六三年四月八日までの一三一日間

(3) 兵庫県玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター附属中央病院(以下「玉津福祉センター」という。)

昭和六三年四月八日から同年七月二六日までの一一一日間

(三) 原告みゆきの本件受傷は、昭和六三年七月二六日症状固定し、両下肢の完全麻痺の後遺障害が残存し、両下肢の自動運動は不能で、痙性が極めて顕著な状態である(以下「本件後遺障害」という。)。

本件後遺障害は、自賠責保険後遺障害等級一級に該当するとの認定を受けている。

4 原告みゆきの損害

(一) 治療関係費 金五〇四万三三〇〇円

(1) 症状固定までの治療費以外の治療に必要な器材料の購入代金 金一二〇〇円

原告みゆきは、玉津福祉センターに入院中、綿棒、オプサイド等治療に必要な器材料を購入し、その費用として金一二〇〇円を要した。

(2) 文書代 金三万円

保険会社等から診断書等の提出を求められるたびに、作成を依頼したものであり、その内訳は、(イ)国立神戸病院分五通計金一万一〇〇〇円、(ロ)玉津福祉センター分五通計金一万九〇〇〇円である。

(3) 症状固定後の将来の治療費 金五〇一万二一〇〇円

原告みゆきは、本件症状固定時二三歳(昭和三九年一一月一八日生)の女子であるところ、症状固定後も本件後遺障害による下半身麻痺のため、常時、衛生具を使用しなければならず、また、車椅子による生活のため褥創ができやすく、その治療が日常的に必要であるところ、原告みゆきの場合のように、症状が固定した後でも、症状の悪化を防ぎ、現状を維持するために将来にわたつての治療が必要であれば、その治療費を認めるべきである。

現に、原告みゆきは、症状固定後、治療費として金三六九〇円を、衛生具の費用として金一万〇一四五円を、褥創の治療のために必要な費用として金五九〇〇円を支出している。また、原告みゆきは、腎盂炎等の病気にもかかりやすく、約一〇日の入院で、治療費として金一万一四三〇円を支出した。

以上の事情や、原告みゆきが、生涯にわたつて定期検査等が必要であることを考慮すると、原告みゆきは、症状固定後の将来の治療費として、毎月、少なくとも金一万五〇〇〇円、年間金一八万円程度を必要とする。

そこで、本件症状固定時二三歳の原告みゆきの平均余命を五九・一一年として、原告みゆきの将来の治療費の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金五〇一万二一〇〇円となる。(新ホフマン係数二七・八四五)

18万0000(円)×27.845=501万2100(円)

(二) 入院雑費 金三六万〇八〇〇円

(1) 原告みゆきの本件入院期間昭和六二年一一月二八日から昭和六三年八月三一日までの二七八日間中、一日当り金一二〇〇円の割合による合計金三三万三六〇〇円。

1200(円)×278=33万3600(円)

(2) また、原告みゆきは、自宅での生活が事実上不可能であつたため、昭和六三年九月一日から職業訓練学校に入つた平成元年四月一日までの二一二日間、病院での生活を余儀なくされたが、その間の入院雑費について一日最低金六〇〇円の割合で合計金一二万七〇〇〇円が認められるべきである。

600(円)×212=12万7200(円)

(三) 付添看護費 金五三万六〇〇〇円

原告みゆきの症状は、昭和六二年一一月二八日から昭和六三年四月八日までの一三四日間、重篤状態となつていたため、原告みゆきの母親である原告勝子の付添看護を必要とし、原告勝子は、パート勤めを辞めて、原告の付添看護に当たつたところ、一日当たりの付添看護費は、原告みゆきの症状に照らし、一日金四〇〇〇円を基準とすべきである。

したがつて、原告みゆきの付添看護費は金五三万六〇〇〇円となる。

4000(円)×134=53万6000(円)

(四) 家屋改造費 金八二二万四四四〇円

(1) 原告みゆきは、本件後遺障害のため、車椅子を使用する必要があり、同人が最低限の生活を行うことができるためには、その生活の拠点というべき自宅内で、車椅子により移動でき、食堂、風呂、便所を独力で利用できるようにするために、既存家屋の改造が必要不可欠であるところ、同人の場合は、右家屋を全面的に建て替え、そのなかで、同人のために必要な設備の設置を行うこととした。

(2) しかして、同人の車椅子による住居内での起居及び生活を可能ならしめるためには、最低限以下の改造工事が必要であり、これに要する費用は、総額金八二二万四四四〇円である。

(イ) 仮設工事中の解体撤去

浴槽を作り替えるためである。

(ロ) 基礎工事

風呂と便所の分である。

(ハ) 木工事

既存家屋内の段差をなくしたり、廊下の幅を広げたり、食堂や原告みゆきの部屋を板敷きに替えて、車椅子で移動できるようにすることに関連する工事である。

(ニ) 屋根工事

増築した便所の分である。

(ホ) 建具工事

(ハ)の木工事に関連して必要になつた工事である。

(ヘ) 左官工事

既存家屋玄関先の段差解消及び浴室、便所関連の工事である。

(ト) ほう錺及び金属工事

原告みゆきの移動時における安全確保のための手すり等の工事である。

(チ) 内装工事及び塗装工事

前記玄関及び台所周辺を車椅子で移動するための工事に関連した工事並びにその仕上げともいうべき工事である。

(リ) 電気工事

本件家屋改造工事に伴う必要最小限の工事である。

(ヌ) 給水設備工事

原告みゆきが普通の生活を送るために必要な分と同人の体温調節機能の減退を補うために電気温水設備を設置するものである。

(ル) 衛生設備工事

既存家屋の浴室、便所の改造工事である。

(ヲ) タイル工事

前記玄関スロープと浴室工事分である。

(ワ) 冷暖房空調設備工事

原告みゆきにおいてその体温調節機能が著しく劣化しているため、右工事は、同人の健康保持のうえで必要不可欠である。

(五) 車椅子、自動車、器具、義肢代金 金五四八万九八三五円

原告みゆきの損害額の算定は、車椅子、自動車の利用を前提にしてなされるのであるから、車椅子、自動車の購入のための費用は、当然、損害の一部と考えるべきである。

(1) 車椅子の購入に必要な費用 金一八一万八三六三円

(イ) 既に支出した分 金四一万五〇五二円

購入時期と費用は次のとおり。

購入時期 費用

(a) 一台目 昭和六三年五月 金一四万二二六〇円

(b) 二台目 昭和六三年一一月 金四万円(自己負担分)

(c) 三台目 平成元年一〇月 金五万四八五〇円 (自己負担分)

(d) 四台目 三台目と同時。 金一七万七九四二円

合計 金四一万五〇五二円

現在、原告みゆきは、自宅内用に一台、外出用に一台、職場で一台の計三台を利用しており、実際には、乗り換えが危険なため、外出用のものをそのまま自宅内で使用しているので、自宅内用のものは未使用である。

なお、公的扶助の対象とされるのは、所有車椅子二台までであるが、車椅子は屋内用、外出用で、構造等に差があり、本来は別々に用意すべきものである。

(ロ) 将来要する分 金一四〇万三三一一円

車椅子の耐用年数は、法律上四年であるが、原告みゆきの場合は、その使用頻度が高く、三年で買い換える必要がある。また、車椅子本体以外の用品は、公的扶助の対象ではなく、消耗も激しいので、スポークガード、円座、タイヤ、チユーブ、キヤスター等は一年程度で交換をしている。

一番新しい四台目を例にとると、本体代金が金八万七六〇〇円、付属品一式が金六万三八六〇円であり、そのうち、取り替えが必要になるスポークガード、キヤスター、円座、タイヤ、チユーブ、車輪着脱式等の値段は、金五万一三〇〇円であつた。

したがつて、車椅子の部品等を毎年一回交換するとして、平均余命を勘案して交換の回数を六〇回とすると、所有する車椅子を二台としても、将来の六〇年間に要する車椅子購入費用の現価額を年別の新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり、金一四〇万三三一一円となる。

5万1300(円)×27.355=140万3311(円)

(2) 自動車の購入、改造に必要な費用 金三六五万一七二二円

(イ) 既に支出した分 金二〇四万一五一〇円

(その内訳)

(a)  自動車本体の購入代金 金一八九万〇五一〇円

(b)  身障者用に改造するための費用 金一三万五〇〇〇円

(c)  ブレーキかけ忘れ警報ブザー設置費用 金六〇〇〇円

(d)  身障者用ステツカー費用 金四〇〇〇円

(e)  車椅子と接触する部分の保護ラバー代 金六〇〇〇円

(ロ) 将来要する分 金一六一万〇二一二円

自動車の耐用年数は三年ないし六年とされているが、三年程度で買い換えることが多く、買い換えの際には、身障者用に改造した器具一式の再利用は不可能であり、買い換えの度に費用をかけて改造しなければならないところ、改造一式の費用は、平成二年七月現在、金一六万三〇〇〇円であり、将来とも増加が見込まれる。

したがつて、将来の自動車買い換えに際して要する改造費用は、買い換えを三年毎として合計二〇回とし、新ホフマン係数を利用し、年五分の割合による中間利息を控除してその現価額を算定すると次の計算式のとおり金一六一万〇二一二円となる。

(3) 器具、義肢代等 金一万九七五〇円

(イ) 短下肢装具代 金一万三七五〇円

原告みゆきの足の状態により、定期的に取り替える必要がある。

(ロ) 伸縮リーチヤー代 金六〇〇〇円

伸縮リーチヤーは、原告みゆきが車椅子で生活しているので背の届かない空間が多く、頻繁に必要となるものであり、現在まで、破損等の取り替えもあり、合計金六〇〇〇円の費用を要している。

(六) 将来の介護費用 金四〇六五万三七〇〇円

(1) 原告みゆきは、前記のとおり昭和三九年一一月一八日生れの女子であるところ、本件後遺障害のため、第三者の援助がなければ、食事の準備、部屋の掃除、入浴、洗濯等の生活をするための基本的な動作をすることが全くできず、車椅子から転落した場合には独力で車椅子に戻ることも非常に難しく、危険であるし、同人の肉体には過酷な負担がかかつており、現在の運動能力をいつまで維持できるか不明である。また、同人における下半身の完全麻痺のため、同人には、体温調節機能、自律神経の機能が損なわれており、通常人のようにうまく健康を維持できないうえ、排泄機能が侵されているため、腎盂炎等を患いやすく、今後、病気になれば、同人の運動能力は完全に失われるおそれがある。

このように、原告みゆきには、本件後遺障害のため将来にわたつて、近親者の介護が必要である。

(2) 原告みゆきの介護には、現在、母親の原告勝子が当つているが、同人も高齢で、腰部に持病があり、それほど健康でもなく、原告みゆきをいつまで介護できるか定かではない。

原告みゆきには、原告勝子以外に介護を依頼できる者はなく、職業付添い婦を依頼した場合の費用は、一日金一万円以上を要することは、周知の事実である。

(3) そこで、原告みゆきの将来の介護費用の算定については、同人が自宅に帰つてきた平成元年七月以降の全期間について認められるべきであるところ、右介護のための一日当たりの費用を金四〇〇〇円、本件症状固定時二三歳の同人の平均余命を五九・一一年(昭和六二年度簡易生命表による。)とし、これらの事実を基礎として同人の将来の介護費用の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金四〇六五万三七〇〇円となる。

4000(円)×365×27.845=4065万3700(円)

(七) 後遺障害による逸失利益 金五六五八万三七四八円

(1) 原告みゆきは、昭和三九年一一月一八日生れの女子であるところ、高校を卒業してから就労を続けていたが、本件交通事故直前には、将来にわたつて歯科医院に勤務し、歯科衛生士の資格をとろうと考え、昭和六二年一二月一日から、岡歯科医院で勤務することになつていた。

給与の額については、歯科衛生士の資格試験が翌年六月にあるので、取り敢えず金一二万円程度の給与で働き、右資格を取得した後、改めて考慮してもらうことになつていた。

(2) 原告みゆきは、本件交通事故の結果、腕の運動能力しかなくなつたが、その障害を克服するために必死の努力を重ね、腕の筋力を鍛えるための訓練を重ねた結果、車椅子の乗降、乗用車への移動は自力でできるようになり、限られた範囲で単独行動が可能となつたものの、衣服の着脱、排便には種々の制限がある。

同人が、右のような必死の訓練を重ねたのは、「生きる」ということを真剣に考え、一人の人間として社会に参加することの重要性を考えているからである。

(3) 原告みゆきは、本件交通事故の後、身障者のための職業訓練学校の紹介で、宮崎工芸で働いている。他に働ける場所はなかつた。

同人の右職場への通勤時間は一時間以上を要し、しかも、同人は、日曜日を除いて、土曜日、祝日も、午前八時から午後六時ころまで勤務し、受ける給料は月額約一〇万円である。

同人の右就労は、同人に労働能力がいくらか残存していて、それが適切に評価された結果であるというよりは同人における社会参加の一形態と評価すべきものであり、右就労に費される自動車の経費等を考えると、同人に経済的な利点はない。しかも、右通勤や勤務は、同人にとつて肉体的・精神的に過酷であり、いつまで勤務できるか全くわからない状態である。

原告みゆきの腕の筋力は、それほど長期間続くとは考えられず、いずれ腕で自らの体を支えることができなくなれば、車椅子、自動車その他行動するための補助道具は全て無意味になるが、同人は、それを承知のうえ、生きて社会に参加するため、現在就労している。

(4) 以上の事情を斟酌すると、原告みゆきは、本件後遺障害により、終生にわたつてその労働能力を一〇〇パーセント喪失したものというべきである。けだし、そのように考えないと、苦しい訓練を経て、限られた期間、わずかの機能を回復し、肉体的・精神的に大きな犠牲を払つて社会生活に参加している者に対する賠償額がより低額になり、そのような努力をしない者に対する賠償額がより高額になるという不合理な結果となつてしまうからである。

(5) しかして、原告みゆきの逸失利益の算定の基礎となる年収は、平成元年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者・新高卒全年齢平均の年収額によるべきである。

すなわち、原告みゆきの症状固定時の年齢は、二三歳であるが、右のような若年における賃金センサスによる平均賃金は、女子労働者の平均値より低く、他方、賃金水準は、年齢が高くなるとともに増額し、物価水準も毎年上昇するのは確実であるから、後遺障害による逸失利益を算定するに当つては、弁論終結時において判明している最新の賃金センサスである平成元年分を使用し、さらに、新高校卒同年齢欄を使用するのではなく、新高校卒業女子労働者の全年齢平均の年収額を利用するのが公平である。

そこで、右算定の基礎となる新高卒女子の平均賃金を年額金二五〇万二六〇〇円(月収一六万四六〇〇円、賞与等五二万七四〇〇円)とし、同人の就労可能年数を六七歳までの四三年間として、同人の将来の逸失利益の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金五六五八万三七四八円となる。

250万2600(円)×22.61=5658万3748円

(八) 慰謝料 金二二二八万円

(1) 入院分 金二二八万円

(2) 後遺障害分 金二〇〇〇万円

原告みゆきは、本件事故当時、二三歳の未婚の女性であつたが、右事故により、下半身の機能を全廃した状態であり、結婚し、子供を産み、家庭を築くという将来の人生の設計を根本的に覆された。

同人の現在の健康状態は、体温調節機能の著しい低下、自律神経系統の機能低下、風邪等をひきやすく、細菌等の感染症にかかりやすい、小さな打ち身、切り傷でも回復が遅いというように、全身的症状として現れてきている。

また、同人が車椅子や自動車を利用できるのは、極めて限られた期間に過ぎないと予想されるうえ、車椅子や自動車を利用できるといつても、自由に買い物や食事に行つたり、旅行にでかけたりすることは不可能である。

他方、被告黒田は、原告みゆきに対し、慰謝の姿勢・態度を全く示さず、被告尾崎も、原告みゆきに対し、保険会社が認めたわずかな休業補償をごく短期間支払つたに過ぎない。

以上の諸事情を考慮すれば、原告みゆきの後遺障害慰謝料は、金二〇〇〇万円を下回るものではない。

(九) 弁護士費用 金九九〇万円

原告みゆきは、本件訴訟の提起と追行を、弁護士である原告代理人らに委任し、相当額の報酬の支払を約したが、原告みゆきが被告らに対し、本件事故による損害として請求し得る弁護士費用の額は金九九〇万円が相当である。

(一〇) 損害の填補 金二七一二万二四七五円

原告みゆきは、本件事故による損害の填補として被告尾崎の加入する任意保険から金二一二万二四七五円、また、自賠責保険から金二五〇〇万円、以上合計金二七一二万二四七五円の支払を受けた。

(一一) 以上、右(一)ないし(九)の合計額金一億四九〇七万一八二三円から(一〇)の損害の填補分を控除した残額は、金一億二一九四万九三四八円となる。

5 よつて、原告みゆきは、被告黒田に対しては、民法七〇九条に基づき、被告尾崎に対しては自賠法三条に基づき、被告ら各自に対し、本件損害賠償総額金一億二一九四万九三四八円の一部請求として、金一億〇九四九万二一一一円及び内金九九五九万二一一一円(弁護士費用を控除した分)に対する本件事故発生の日である昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二 請求原因に対する被告尾崎の答弁

1 請求原因1の各事実は認める。

2(一) 同2(二)の事実は認める。

(二) 同2(三)の被告尾崎に関する主張は認める。

3 同3の各事実は認める。

4(一) 同4(一)の(1)ないし(3)のうち、原告みゆきが本件受傷治療のため明舞中央病院、国立神戸病院、玉津福祉センターに入院したこと、同人の右受傷が症状固定したことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

なお、症状固定後の治療費は、原則として損害とは認められないものである。

(二)(1) 同4(二)の(1)のうち、原告主張の一日単価の相当性及び入院雑費を要する入院期間を争い、その余の事実は認める。右単価は一日当たり金一〇〇〇円の割合が相当であり、右入院期間は昭和六二年一一月二八日から症状固定日である翌昭和六三年七月二六日までの二四二日間分に限定されるべきである。

(2) 同4(二)の(2)の事実及び主張は争う。

(三) 同4(三)のうち、原告みゆきが被告尾崎主張の期間中本件受傷治療のため入院していたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。同人の入院先の病院は、いずれも完全看護の体制にあつたから、付添看護の必要性がなかつた。

(四) 同4(四)のうち、原告みゆき主張の家屋改造の必要は認めるが、その余の事実及び主張は争う。

(1) 家屋改造費については、その必要性や、程度、内容、方法等を具体的に検討すべきであるところ、本件においては、本件事故当時の家屋を改造することなく、新たに家屋を新築し、原告みゆきのための設備が設置されたこと、また、原告らが居住していた旧家屋は、右事故当時、非常に古い建物であり、新家屋の建築が必ずしも原告みゆきの障害を理由としてなされたのではないことを考慮すれば、家屋改造費として認められるのは、新築工事代金中、原告みゆきの障害のため設置を余儀なくされた費用に限られるべきである。

しかるに、右費用部分はなんら明確にされてはいない。

(2) 仮にそうでないとしても、原告みゆき主張の本件家屋改造費は過大であり、同人主張の既存家屋の改造費用を、全て損害と認めることはできない。すなわち、

(イ) 原告みゆきが既存家屋において二階の二部屋を使用していたことから、改造工事も、同人が二階の部屋を使用することを前提としているが、右家屋一階には普段使用していない客間等のスペースがあることや、同人の両親が右家屋二階を使用することにより、原告みゆきの部屋を右家屋一階に移すことに支障はないのであるから、敢えて右家屋二階部分を改造しリフト等を設置する必要はない。

(ロ) 冷暖房空調設備工事は、近年の一般家庭におけるその設置状況や、右設置による恩恵が原告みゆきだけでなく、同人の家族に及び、共益的要素が高いことから本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

(ハ) 同様に、電気工事、建具工事、給水設備工事、内装工事についても、本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

(ニ) 原告みゆきの主張中右掲記以外の工事部分にも、同人とその家族の共益的要素の高いものがあり、その点を考慮して減額されるべきである。

(五)(1) 同4(五)の(1)のうち、原告みゆきが車椅子を必要とすることは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

車椅子は、本来、二台で十分であり、身体障害者福祉法二〇条より、二台までは公的扶助の対象となつているから、車椅子を自費で購入する必要はなく、現に、原告もその所有する三台のうち、一台は使用していない。

したがつて、原告が、任意に支出して購入した四台目の費用の金一七万七九四二円は、本件事故と因果関係を欠く。

(2) 同4(五)の(2)のうち、(イ)(b)ないし(e)の費用が本件事故と相当因果関係のある損害であることは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

自動車は、一般に自動車利用率が高い現状において、日常生活用資産というべきであり、本件事故がなくても購入が予想されるものであるから、車両本体に要した費用は、本件事故と相当因果関係がなく、障害者用に特別に仕様した分のみを損害と認めるべきであり、その仕様分の耐用年数は六年とみるべきである。

(3) 同4(五)の(3)の事実及び主張は争う。

(六) 同4(六)のうち、原告みゆき主張の将来の介護費用の必要は認めるが、その余の事実及び主張は争う。

原告みゆきは、車椅子を使用して移動でき、また、自動車の運転も可能であるだけでなく、現に就労しているし、入浴、用便もほとんど自力でできる状態にある。しかも、その住居も、同人の後遺障害に則して改造されているから、実際上介護が必要なのは、同人が病気になつたり、車椅子から転落したときなどの異変が生じた場合が主であり、その範囲は限定されている。

また、原告みゆきが食事の準備、部屋の掃除、洗濯等を全くできないとは考えられないが、同人が、本件事故前でも、必ずしも自ら行つていたのでもなく、主婦である原告勝子が、日常的に行つてきたことが容易に推認される。

以上により、原告みゆきの介護は常時必要なのではなく、また、その内容も限定されたものであるから、原告みゆきの主張するような介護期間及び介護費用を要するものではない。

(七) 同4(七)のうち、原告みゆきに本件後遺障害そのものが残存する事実は認めるが、その余の事実及び主張は争う。

(1) 原告みゆきは、本件事故当時は無職であつたが、それ以前に勤めていた当時の収入は金一〇万円程度であつたところ、本件事故後の平成二年四月から、現に宮崎工芸に就労し、月額約金一〇万円の給与を得ており、本件後遺障害の存在にもかかわらず、本件事故の前後において収入の減少が認められない以上、そもそもその賠償請求を認めることはできない。

(2) 仮に、そうでないとしても、本来、労働は働く者すべてにとつて社会参加の意義を有するものであることは否定できないから、原告みゆきの宮崎工芸での就労に社会参加としての意義を強調するのは相当でなく、また、同人の収入がすべてガソリン代等の経費にかかるとは考えられず、自動車が通勤目的以外にも使用されることを考えると、年間の実質的収入は決して小さくないから、同人が、本件後遺障害によりその労働能力を一〇〇パーセント喪失したものとはとうてい認め難い。

さらに同人の就労可能期間に限界があることは一概に否定できないが、転職の可能性もあり、職種により就労可能期間が変動すること、社会へ出ようとする動機づけ、環境の整備等の条件により就労可能期間は大きく影響されるから、同人の場合、就労の可能性ないしその期間はかなり高いものがあり、その就労可能期間の限界が存するとしても、その限界は決して大きいものではない。

(3) なお、同人については、同人自身の主張による、本件事故直前の給与、就職を予定していた岡歯科医院での給与、さらに、本件事故前に定職を有していなかつたこと、転職の多かつたこと等を考慮すれば、同人の本件逸失利益の算定に当たり賃金センサスの新高卒女子の平均賃金を基準とすべきではなく、むしろ右統計における二三歳の女子平均賃金を基準とすべきである。

(八) 同4(八)のうち、原告みゆきが本件受傷とその治療及び後遺障害の残存により精神的苦痛を被つたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

同人の本件慰謝料は金一六五〇万円が相当である。

(九) 同4(九)の事実及び主張は争う。

(一〇) 同4(一〇)の事実は認める。

(一一) 同4(一一)の主張は争う。

5 同5の主張は争う。

三 被告尾崎の抗弁(過失相殺)

1 被告黒田は、本件事故直前、被告車を運転し、本件事故現場道路を時速約三〇キロメートルで西進中、右事故現場付近に至つた際、同人において、右道路の左側にある喫茶店に入ろうとして、路外に出るため左折合図を出して減速し、左にハンドルを切つた。ところが、その直後、原告車が被告車の左後方から右道路左側を直進してきたため、被告車と原告車が接触し、原告車が転倒して、本件事故が発生した。

2 ところで、原告みゆきは、本件事故直前、原告車を運転して右事故現場道路の左端付近を走行し、自車の前方に進行する被告車を認めており、また、被告車は減速し、、左折の合図を出していたのであるから、原告みゆきとしては、被告車の動静を確認し、かつ、これと十分な車間距離を取つて進行するなどして事故の発生を防止すべき注意義務があつた。しかるに、同人は、これを怠り、被告車の左折の合図の確認をせず、あるいは、十分な車間距離を保つことをしなかつたために本件事故を発生させた。

3 よつて、本件事故発生には、原告みゆきの過失も寄与している故、同人の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌されるべきである。

しかして、斟酌されるべき同人の過失割合は、少なくとも三〇パーセントを下らない。

四 抗弁に対する原告みゆきの答弁

抗弁における1の事実のうち、被告車が本件事故直前時速約三〇キロメートルの速度で走行していたこと、左折の合図を出して減速したことは否認し、その余の事実は認める、同2の事実及び主張は争う。同3の主張は争う。

原告みゆきには、本件事故発生に対し、何の過失もなかつた。すなわち、

1 原告みゆきは、本件事故直前、原告車を運転し、右事故現場道路を、時速約二五ないし三〇キロメートル程度の速度で、右道路の車道左端を西進していたが、その際、被告車は、原告車よりやや遅い速度で同一道路右寄りを走行し、原告車と進行道路左側のガードレールとの距離は、十分にあつた。

2 被告車は、本件事故直前、自車方向指示器による左折の合図を全く出さず、進行道路左端ガードレールとの距離を大きく開け、左端に寄るという様子も全くなかつた。

3 そこで、原告みゆきは、被告車がそのまま直進するものと考え、被告車とガードレールの間を通り抜けて追い抜こうと進行したところ、被告車が左折の合図を全く出さないまま急に左折したためにこれに衝突し、本件事故が発生した。

4 したがつて、原告みゆきにとつて、被告車を運転していた被告黒田の右無謀、急激な左転把を予見することは不可能であつた。

(第二事件関係)

一  請求原因

1 原告一亮は原告みゆきの父であり、原告勝子は原告みゆきの母である。

2 第一事件の請求原因1の各事実に同じ。

3(一) 第一事件の請求原因2(一)の事実に同じ。

(二) 第一事件の請求原因2(二)の事実に同じ。

(三) よつて、被告黒田には、民法七〇九条、七一〇条に基づき、被告尾崎には、自賠法三条に基づき、両名連帯のうえ、原告一亮及び原告勝子が本件事故により被つた後記5主張の精神的損害を賠償する責任がある。

4 第一事件の請求原因3の各事実に同じ。

5 原告一亮及び原告勝子は、原告みゆきの両親として、原告みゆきが本件事故によつて受傷し、その結果重篤な後遺障害が残存したことにより、著しい精神的苦痛を被つた。

すなわち、原告一亮及び原告勝子は、原告みゆきが末の娘であり、特に可愛がつて大事に育て、その将来を楽しみにしていたところ、原告みゆきは、スポーツ好きの明るい子供に成長したが、本件事故のために、その下半身の機能をすべて失い、子供を生むことが難しくなり、原告一亮及び原告勝子にとつて、その精神的な痛手は極めて大きい。

かかる原告一亮及び原告勝子の精神的苦痛に対する慰謝料は、それぞれ金一五〇万円が相当である。

6 よつて、原告一亮及び原告勝子は、被告ら各自に対し、本件慰謝料として、各金一五〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告尾崎の答弁

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の各事実は認める。

3(一) 同3(二)の事実は認める。

(二) 同3(三)の被告尾崎に関する主張は認める。

4 同4の各事実は認める。

5 同5のうち、原告一亮及び原告勝子において、原告みゆきが本件事故により受傷し、重篤な後遺障害が残存したことにより、精神的苦痛を被つたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

ところで、原告一亮及び原告勝子は、本件事故によつて原告みゆきが死亡していないにもかかわらず、本件事故により被告らに対する慰謝料請求権を取得したと主張しているところ、一般に、被害者本人の近親者による慰謝料請求権の取得は、明文の規定がない限り、認められるべきではない。

けだし、その請求権者の範囲や、その傷害(後遺障害を含む。)の程度について、明確な基準が定立されていない現状において、近親者の慰謝料請求権を認めることは、法的安定性を損なうこととなるし、加害者側としても、示談の相手方を特定できず、また、訴訟となつて判決や和解で解決した事件について、再び紛争が発生する可能性があり、不合理な結果となるからである。

6 同6の主張は争う。

二  被告尾崎の抗弁(過失相殺)

1 第一事件における被告尾崎の抗弁1及び2の事実に同じ。

2 よつて、原告みゆきの右過失は、いわゆる被害者側の過失として原告一亮及び原告勝子の本件慰謝料額の算定に当たり斟酌されるべきであるところ、右斟酌されるべき右過失割合は、少なくとも三〇パーセントを下らない。

三  抗弁に対する原告一亮及び原告勝子の答弁

第一事件における抗弁に対する原告みゆきの答弁に同じ。

したがつて、本件において被告尾崎が主張する被害者側の過失なるものは存在しない。

第三  被告黒田は、第一、第二事件とも公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

第四  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一第一事件関係

一  本件事故の発生

1  原告みゆきと被告尾崎関係

請求原因1の事実は、原告みゆきと被告尾崎との間で争いがない。

2  原告みゆきと被告黒田関係

原告みゆきと被告尾崎との間においていずれも原本の存在及び成立に争いがなく、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、原告みゆきと被告黒田との間においても真正な公文書と推定すべき乙第二号証、第七、第八号証、第一一号証、第一六号証、原告山崎みゆき本人尋問の結果を総合すれば、原告みゆきと被告黒田との間においても請求原因1の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二  被告らの本件責任原因

1  被告黒田関係

(一) 前掲乙第二号証、第七、第八号証、第一一号証、第一六号証、原告山崎みゆき本人尋問の結果(ただし、乙第八号証の記載中及び原告山崎みゆき本人尋問の結果中、いずれも後記信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(1) 被告黒田は、本件事故直前、被告車(幅一・五八メートル)を運転して、本件事故現場道路の西行き車線の中央部分を時速約三〇キロメートルで西進し、右事故現場にさしかかつた際、右道路の路外左側にある喫茶店「みはらし茶屋」に入ろうと考え、左折の合図をし、本件衝突地点約三〇メートル手前で、自車の左後方約一六・五メートルの地点に、自車と同一方向に進行してくる原告車を認めた。

(2) そこで、被告黒田は、あらかじめ被告車を左側端に寄せようと考えたが、原告車と接触してはいけないと考え、被告車を本件事故現場道路の左側端に寄せず、左側端のガードレールとの間隔を約一・四メートル空けたまま走行させ、時速約一〇キロメートルに減速したのみで、原告車の動静に注意を払わず、漫然と左折を開始し、その結果、本件事故を発生させた。

(3) 右認定に反する、前掲乙第八号証の記載部分及び原告山崎みゆき本人の供述部分は、前掲各証拠と対比していずれもにわかに信用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二) 右認定各事実を総合すると、被告黒田は、本件事故現場付近において被告車を左折させるに際し、自車をできるだけ左側端に寄せ、かつ後続する原告車の動静に注意し、自車左後方の安全を確認して左折すべき注意義務に違反する過失により右事故を惹起したというべきである。

よつて、被告黒田には、民法七〇九条により、原告みゆきの被つた後記四の損害を賠償すべき責任がある。

2  被告尾崎関係

被告尾崎が、本件事故当時被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

よつて、被告尾崎には、自賠法三条により、原告みゆきの被つた後記四の損害を賠償すべき責任がある。

3  被告らは、本件事故の共同不法行為者と認めるのが相当であるから、連帯して原告みゆきの右損害を賠償すべきである。

三  原告みゆきの本件受傷内容、入院期間及び後遺障害の内容・程度

1  原告みゆきと被告尾崎関係

原告みゆきが、本件事故により、第四胸髄損傷、両下肢完全麻痺(体幹機能障害)の傷害を受け、(一)明舞中央病院に、本件事故当日の昭和六二年一一月二八日から同年一一月三〇日までの三日間、(二)次いで国立神戸病院に、昭和六二年一一月三〇日から翌昭和六三年四月八日までの一三一日間、(三)次いで玉津福祉センターに、昭和六三年四月八日から同年七月二六日までの一一一日間各入院したこと(入院期間の合計は二四二日間。以下「本件入院期間」という。)、原告みゆきの本件受傷は、昭和六三年七月二六日症状固定し、両下肢の完全麻痺の後遺障害が残存し、両下肢の自動運動は不能で、痙性が極めて顕著な状態であること、本件後遺障害は、自賠責保険後遺障害等級一級に該当するとの認定を受けていることは、当事者間に争いがない。

2  原告みゆきと被告黒田関係

原告みゆきと被告尾崎との間においていずれも成立に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間においても、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証ないし第三号証、乙第九、第一〇号証(ただし、乙第九、第一〇号証についてはその原本の存在とも。)、第一八号証ないし第二九号証、証人高田正三の証言、原告山崎みゆき本人尋問の結果を総合すると、原告みゆきと被告黒田との間においても、右1の各事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

四  原告みゆきの本件損害(原告みゆきと被告尾崎、同原告と被告黒田関係に共通)

1  治療関係費 合計金三万一二〇〇円

(一) 症状固定までの治療費以外の治療に必要な器材料の購入代金 金一二〇〇円

原告みゆきと被告尾崎との間において成立に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間においては弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二三号証及び弁論の全趣旨によると、原告みゆきは、玉津福祉センターに入院中の昭和六三年四月一六日から同月三〇日までの間に、綿棒、オプサイド等治療に必要な器材料を購入し、その費用として金一二〇〇円を要したことが認められる。

(二) 文書代 合計金三万円

原告みゆきと被告尾崎との間においていずれも成立に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間においてはいずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一九号証ないし第二一号証、第二四号証、第二六号証、第二八、第二九号証、第三一、第三二号証、第三四号証及び弁論の全趣旨によると、原告みゆきは、本件受傷に関し保険会社等から診断書等の提出を求められるたびに、各医療機関にその作成を依頼し、(イ)国立神戸病院分五通、計金一万一〇〇〇円、(ロ)玉津福祉センター分五通、計金一万九〇〇〇円、以上合計金三万円を要したことが認められる。

(三) 症状固定後の将来の治療費

(1) 原告みゆきは、同原告が、症状固定後も本件後遺障害による下半身麻痺のため、常時衛生具を使用しなければならず、また、車椅子による生活のため褥創ができやすく、その治療が日常的に必要であるから、症状が固定した後でも、症状の悪化を防ぎ、現状を維持するために将来にわたつての治療が必要であれば、その治療費を認めるべきであるとして、原告みゆきの症状固定時の平均余命である五九年間にわたり、毎月少なくとも金一万五〇〇〇円、年間金一八万円程度の治療費を必要とする旨を主張している。

ところで、原告みゆきが主張する右症状固定後の将来の治療費が本件損害として肯認されるためには、右費用がその性質上、多分に不確定的要素を含むものである故、将来の治療等の必要性のみならず、費用支出の確定性、費用額の現時点における確定の可能性等の要件をも充足する必要があると解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると、

(イ) 証人高田正三の証言によれば、同人は、原告みゆきが玉津福祉センターに入院していた当時の主治医であることが認められるが、右証人の証言によつても、右説示にかかる右将来の治療等の必要性は別として、費用支出の確定性と費用額の現時点における確定の可能性は、未だ認め得ない。

(ロ) 確かに、原告みゆきと被告尾崎との間においていずれも成立に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間においてはいずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三五号証ないし第四四号証、証人高田正三の証言、原告山崎みゆき本人、原告山崎勝子本人各尋問の結果によれば、原告みゆきは、症状固定後も車椅子の生活によつて生じる褥創の治療のため昭和六三年一〇月一日から平成二年四月二三日までの間前後八回にわたつて玉津福祉センターで受診し、治療費として合計金三六九〇円を支出したこと、原告みゆきは、下半身麻痺のため、泌尿器の機能を喪失し、導尿による細菌感染が原因で腎盂炎等に罹患しやすく、現に平成元年一二月二五日から平成二年一月五日までの約一〇日間、腎盂炎のために偕生病院に入院し、金一万一四三〇円の治療費を要したことが認められるが、右認定各事実だけからは、少くとも、原告みゆきが主張する期間その主張にかかる費用支出の確定性、費用額の現時点における確定の可能性は、未だこれを認めるに至らない。

(ハ) そして、他に、前記説示にかかる各事実を肯認するに足りる的確な証拠はない。

(3) なお、原告みゆきは、右認定各事実以外にも衛生具の費用として金一万〇一四五円を、また、治療のために必要な費用として金五九〇〇円を、各支出している旨を主張し、同人が主張する、同人の症状固定後の将来の治療費に関する裏付けとしているが、右金員の支出自体を窺わせる証拠としては、いずれも原告山崎勝子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六四号証、第六六号証、原告勝子本人の右供述しか存在しないところ、右甲号各証は、単なるメモにすぎず、右各文書から直ちに右金員の支出自体を認め得ないし、原告勝子の供述からも右事実を認め得ない。

したがつて、右各文書の記載内容も、未だ原告みゆきの症状固定後の将来の治療費に関する前記説示にかかる各事実を裏付ける客観的な証拠とは認め難い。

(4) よつて、原告みゆき主張の症状固定後の将来の治療費は、未だこれを認めることができない。

2  入院雑費 金二六万六二〇〇円

(一) 本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下「本件損害」という。)としての入院雑費は、症状固定時までの本件入院期間について、一日当たり金一一〇〇円と認めるのが相当であるから、原告の本件入院期間二四二日間の入院雑費は合計金二六万六二〇〇円となる。

1100(円)×242=26万6200(円)

(二) なお、原告みゆきは、右認定にかかる本件入院期間二四二日を超える昭和六三年八月三一日までの入院期間についても入院雑費を請求するほか、さらに、自宅での生活が事実上不可能であつたため、昭和六三年九月一日から平成元年四月一日まで二一二日間病院での生活を余儀なくされたとして、右期間中の入院雑費をも請求している。

しかしながら、原告みゆきの症状固定後昭和六三年八月三一日までの間の入院治療については、その相当性を認め得る的確な証拠がないし、右昭和六三年九月一日から平成元年四月一日までの二一二日間の入院については、それが原告みゆきの本件受傷治療のためのものであることは、これを認めるに足りる証拠がなく、かえつて、原告みゆき本人の供述によれば、右入院期間は、症状固定後における機能回復訓練のためだけのものであつたことが認められる。右認定に照らすと、原告みゆきが主張する、右認定にかかる入院期間を超える期間の入院雑費は、未だ本件損害とは認め得ない。

よつて、原告みゆきの右主張部分は、理由がない。

3  付添看護費 金五三万二〇〇〇円

(一) 原告みゆきが、本件事故の発生の日である昭和六二年一一月二八日から翌昭和六三年四月八日まで一三三日間国立神戸病院に入院したことは、前記三で認定したとおりである。

(二) そして、原告山崎みゆき本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告みゆきの右入院期間中は付添看護を要する状態にあり、国立神戸病院は一応完全看護の建前を取つていたが、夜間看護婦が二名しかおらず、原告みゆきの本件受傷が重篤であることに鑑み、病院から近親者の付添看護を要請されたこと、そこで、母親の原告勝子が右期間中付添つていたことが認められるところ、本件損害としての近親者の入院付添費は一日当たり金四〇〇〇円と認めるのが相当であるから、一三三日間で金五三万二〇〇〇円となる。

右認定に反する被告尾崎の主張は、理由がなく、採用できない。

4  家屋改造費 金六五〇万円

(一) 原告みゆき主張の家屋改造の必要については、原告みゆきと被告尾崎との間に争いがない。

(二)(1) 原告山崎みゆき本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、証人高田正三の証言、原告山崎みゆき、原告山崎勝子各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(イ) 本件事故当時の原告みゆき宅(以下「旧建物」という。)は、原告みゆきが生まれる以前に建築された古い木造二階建の建物であつて、原告みゆき、原告一亮、原告勝子及び祖母が同居し、一階部分には和室九部屋のほか、台所、浴室、広縁、縁及び板間があり、二階部分には和室四部屋(うち東側二部屋を原告みゆきが使用していた。)があつた。

(ロ) 原告みゆきは、本件後遺障害によつて、両下肢の自動運動がまつたく不可能となり、下半身の知覚が欠落しているため、家屋の内外を問わず場所的移動には車椅子を必要とし、排泄及び入浴に介護を必要とする生活を余儀なくされ、終生自宅で生活することが想定されている。

(ハ) しかるに、旧建物の現状では、(a)玄関と敷台との間に段差があり、車椅子で出入りすることができず、(b)勝手口から入るにも段差があり、(c)台所とその隣りの和室との間には、一二センチメートルないし一三センチメートルの段差があるため、車椅子で自由に往来することができず、(d)その他一階廊下に車椅子の通れる幅がない部分があつたり、廊下と縁との境に二段の段差がある箇所があり、車椅子で通ることができなかつた。

(2) 右認定各事実を総合すると、原告みゆき主張の本件家屋改造は、早急に着手する必要があつたというべきところ、原告山崎みゆき、原告山崎勝子各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告みゆき方では、本件事故後旧建物を取毀したうえ、平成元年四月ころ、あらたに二階建の家屋を新築したこと、そして右新築家屋にあつては、原告みゆきのために、(イ)二階部分の八畳間及び六畳間を原告みゆきの専用の部屋とし、原告みゆきが右二階部分へ移動するための家庭用昇降機を設置し、(ロ)家屋内の段差を解消し、(ハ)便所を車椅子で入れるようにし、(ニ)浴室の湯船を低くして手すりを設置し、(ホ)玄関の入口部分をスロープにしたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) そこで、本件損害としての家屋改造費の具体的内容について判断する。

(1) 右家屋改造費の具体的内容は、被害者である原告みゆきの受傷の内容、後遺障害の内容・程度を具体的に検討し、他方、損害賠償制度の理念の一つである損害の公平な分担をも考慮し、社会通念上その必要性・相当性の存する範囲内でこれを認めるのが相当である。

右見地に則り、原告みゆきの本件家屋改造費に関する主張を検討する。

(2)(イ) 原告みゆきの右主張にそう証拠として、原告山崎みゆき本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、証人高田正三の証言、原告山崎みゆき本人尋問の結果があり、右各証拠によれば、原告みゆきの右主張はすべてこれを是認できるかの如くである。

(ロ) しかしながら、右(イ)掲記の各証拠によつても、原告みゆき宅の改造の主要目的は、(a)玄関から車椅子で建物内に入れるようにする、(b)車椅子による移動を容易にするため、玄関、食堂、便所、洗面所及び浴室と居間との間に存在する段差を解消する、(c)便所及び浴室を身体障害者用のものにする、以上の三点に集約される。

そこで、前記(1)の見地に右認定にかかる主要目的を加え、これを基準としてさらに原告みゆきの右主張を吟味すると、原告みゆきの前記主張中二階部分への家庭用昇降機の設置については、前記新築家屋を建築する際、原告みゆきの居室を一階部分とすることが可能であつたと推認でき、同人の居室を従前どおり二階部分に限定する特段の理由は認められない故、その必要性を認め得ず、また、空調設備の設置についても、同人の火傷の防止は他の方策によることも可能であるから、その必要性を認め得ない。

結局右主要目的にそう改造工事としては、現実に施工した前記(二)(2)(ロ)ないし(ホ)認定の工事に照応する改造工事のみが、前記説示にかかる必要かつ相当な範囲内の改造と認めるのが相当である。

(3) 本件損害としての家屋改造費の具体的金額は、右(2)における認定各事実を基礎とし、前掲甲第六号証の記載内容を検討のうえ、その枠内の金六五〇万円をもつて相当と認める。

(三) 原告みゆきと被告黒田間において、原告みゆきの本件家屋改造の必要性については、前記(二)掲記の各証拠によつてこれを肯認し、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

5  車椅子、自動車、器具、義肢代等

金三六七万五八二六円

(一) 車椅子に関する費用 金一六一万四五六六円

(1) 原告みゆきが車椅子を必要であることは、原告みゆきと被告尾崎間で争いがない。

(2) 既に支出した分 金二三万七一一〇円

(イ) 原告みゆきが、本件後遺障害によつて、両下肢の自動運動がまつたく不可能となり、家屋の内外を問わず場所的移動には車椅子を必要としていることは、既に認定したとおりであるところ、原告みゆきと被告尾崎の間において成立に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間においても原告山崎勝子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、第五三号証、第六一号証、原告山崎勝子本人尋問の結果を総合すれば、原告みゆきは、左記のとおり車椅子を合計四台購入し、その費用として合計金四一万五〇五二円を要したことが認められる。

購入時期 購入費用

(a) 一台目 昭和六三年五月 金一四万二二六〇円

(b) 二台目 昭和六三年一一月 金四万円(自己負担分)

(c) 三台目 平成元年一〇月 金五万四八五〇円(自己負担分)

(d) 四台目 三台目と同時 金一七万七九四二円

合計 金四一万五〇五二円

(ロ) しかしながら、身体障害者用の車椅子については、身体障害者福祉法二〇条によつて二台までは公的扶助の対象となつているところ、前掲甲第一三号証、第五三号証、原告山崎勝子本人尋問の結果によると、前記(b)(c)の車椅子については身体障害者福祉法が適用されて公的扶助の対象となつたため、自己負担分のみの支出ですんだこと、また、現在、原告みゆきは、前記(b)ないし(d)の車椅子三台を所有しているものの、そのうち一台は使用していないことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

そうすると、右身体障害者福祉法の規定に照して、身体障害者用の車椅子は二台が原則であり、現に原告みゆきも二台の車椅子の利用で足りているうえ、同人において公的扶助の対象枠を超えた台数の車椅子を必要とする特段の事情を認めるに足る証拠もないから、前記(a)の車椅子の自費購入については、本件事故との間の相当因果関係の存在を認め得ない。

結局、車椅子に関する費用中既に支出した分のうち、前記(a)ないし(c)の車椅子のために支出した費用合計金二三万七一一〇円をもつて、本件損害と認めるのが相当である。

(3) 将来要する費用 金一三七万七四五六円

(イ) 前掲甲第六一号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一一、第一二号証、第一四号証、第五一、第五二号証、第五六号証、証人高田正三の証言、原告山崎勝子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、車椅子の耐用年数は、法律上四年であるが、使用頻度が高い原告みゆきの場合は三年で買い換えの必要があること、また、車椅子本体以外の附属品は公的扶助の対象とはされず、消耗も激しいため、スポークガード、円座、タイヤ、チユーブ、キヤスター及び車輪着脱式(以下「本件附属品」という。)は一年程度で交換を必要とすること、原告みゆきが平成元年一〇月に購入した車椅子(前記(2)(イ)(d)の車椅子)を例にとると、右購入費用のうち、取り替えを必要とする本件附属品の費用は金五万一三〇〇円であつたこと、原告みゆきは、昭和三九年一一月一八日生れの女子であるところ、本件後遺障害に照し、生涯車椅子を要することが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(ロ) そうすると、右(イ)で認定したところによれば、原告みゆきが三台目の車椅子を購入したのが平成元年一〇月であるから、原告みゆきは、少くとも同年一〇月(二四歳)から平均余命である五八・四九年(平成元年度簡易生命表による。)間、毎年すなわち五八回、少くとも金五万一三〇〇円相当の本件附属品を購入せざるを得ないというべきである。

よつて、右附属品購入費用も、本件損害と認めるのが相当である。

(ハ) そこで、右認定各事実を基礎として、原告みゆきの将来の本件附属品購入費用の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金一三七万七四五六円(新ホフマン係数二六・八五一。円未満切捨て。以下同じ)となる。

5万1300(円)×26.851=137万7456(円)

(4) 原告みゆきと被告黒田間において、原告みゆきの本件車椅子の必要性については、前記(2)(イ)掲記の各証拠によつてこれを肯認でき、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二) 自動車に関する費用 金二〇四万一五一〇円

(1) 既に支出した費用 金二〇四万一五一〇円

(イ) 自動車本体の購入代金 金一八九万〇五一〇円

原本の存在及び成立に争いのない乙第一三号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七、第八号証、原告山崎みゆき、原告山崎勝子各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告みゆきは、昭和五八年六月二二日に原付及び自動二輪の免許を、昭和六一年五月一九日に普通免許をそれぞれ取得し、本件事故以前から二五〇ccの自動二輪車に乗つて通勤等にも使用していたこと、同人は、普通乗用自動車を運転することもあつたが、本件事故の直前の昭和六二年一一月に、新しく自動二輪車(本件事故の原告車)を購入しており、日常的には自動二輪車を使用していたこと、しかし、原告みゆきは、本件後遺障害による両下肢完全麻痺のために自動二輪車を運転できなくなつたため、昭和六三年七月ころ、オートマチツクの普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を代金一八九万〇五一〇円で購入し、これに後述のとおり、アクセル及びブレーキを手で操作できるように改造を加えたことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

右認定各事実を総合すると、原告みゆきが購入した右自動車の購入費用金一八九万〇五一〇円は本件損害と認めるのが相当である。

右認定に反する被告尾崎の主張は、当裁判所の採るところでない。

(ロ) 特別に仕様した費用 金一五万一〇〇〇円

原告みゆきが本件自動車に関して支出した(a)身障者用に改造するための費用、(b)ブレーキかけ忘れ警報ブザー設置費用、(c)身障者ステツカー費用、(d)車椅子と接触する部分の保護ラバー代が本件損害であることは、原告みゆきと被告尾崎との間において争いがなく、右事実に、原告みゆきと被告尾崎の間においていずれも成立に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間においてもいずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、第一六、第一七号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証、第一五号証、第一八号証、原告山崎みゆき本人尋問の結果を総合すれば、原告みゆきは、本件自動車のアクセルとブレーキを手で操作できるよう身体障害者用に改造するため、前記(a)ないし(d)の費用合計金一五万一〇〇〇円を支出したことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、右金一五万一〇〇〇円も本件損害というべきである。

(2) 将来要する費用

原告みゆきは、将来の自動車買い換えを三年に一回とし、これに際して要する改造費用一〇回分を請求しているところ、右主張事実にそう証拠としていずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六〇号証、第六二、第六三号証が存する。

しかしながら、原告みゆきが主張する右将来の改造費用を現在本件損害として肯認するためには、少くとも、本件後遺障害のある原告みゆきの将来における自動車の運転可能年数、将来要する自動車の改造費用及び改造設備の耐用年数の確定を要するところ、右各文書は右各事実を確定し得ず、他に右各事実を確定し得る的確な証拠はない。

よつて、原告みゆきの右主張は、理由がなく採用できない。

(三) 器具、義肢代等 金一万九七五〇円

原告みゆきの本件後遺障害の内容は、前記認定のとおりであるところ、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四五号証、第四七号証、第四九号証、第五〇号証、第五五号証及び弁論の全趣旨によると、同人は、右後遺障害のため、短下肢装具代として金一万三七五〇円、伸縮リーチヤー代として合計金六〇〇〇円、以上合計金一万九七五〇円を支出していることが認められ、これを覆えすに足りる証拠はないから、右金一万九七五〇円は本件損害というべきである。

6  将来の介護費用 金三九五七万二八六二円

(一) 原告みゆきの生年月日、同人の本件受傷内容・入院期間及び後遺障害の内容・程度は、前記認定のとおりである。

(二)(1) 右認定事実に、証人高田正三の証言、原告山崎みゆき本人、原告山崎勝子本人各尋問の結果、及び弁論の全趣旨を総合すると、原告みゆきは、本件後遺障害によつて下半身の自動運動がまつたく不可能となり、下半身の知覚が欠落しているため、現在、入浴時には、母親の原告勝子が、原告みゆきの足を持ち、褥創の防止のため、ガーゼのついたゴムを付ける等の介護をしながら、原告みゆきと一緒に入浴していること、原告みゆきは、食事の用意や、段差があるところでの車椅子による移動等に介護を必要とし、また、しばしば車椅子から転落することがあるので、その際にも家族の助けが必要であること、もつとも、原告みゆきは、現在のところは、衣服の着脱、排便を概ね自力でできるうえ、車椅子を使用して自力で移動することが可能であるものの、将来上半身の筋肉が衰えれば、車椅子の操作が困難となるうえ、脊髄を損傷していることから、将来股関節の周囲、膝の周囲に異所性仮骨が生じ、衣服の着脱や車椅子の操作自体ができなくなる可能性があることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) 右認定各事実を総合すると、原告みゆきの近親者による右原告に対する介護の必要は、同人の生涯を通じて続くと認めるのが相当である。

右認定に反する被告尾崎の主張は、理由がなく採用できない。

(三) そうすると、少くとも向後、原告みゆきの症状固定時(満二三歳)の平均余命である五九年間(ただし、昭和六三年簡易生命表による)、一日当たり金四〇〇〇円の割合による介護費用を要すると認めるのが相当である。

(四) 右認定各事実を基礎として、原告みゆきの将来の介護費用の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金三九五七万二八六二円となる。(新ホフマン係数は、二七・一〇四七。)

4000(円)×365×27.1047=3957万2862(円)

7  後遺障害による逸失利益 金五〇〇四万四九七四円

(一) 原告みゆきの生年月日、同人の本件後遺障害の内容・程度、同人の右障害に基づく現況等は、前記認定のとおりである。

(二)(1) 右認定事実に、前掲甲第一号証ないし第三号証、証人高田正三の証言、原告山崎みゆき本人、原告山崎勝子本人各尋問の結果を総合すると、原告みゆきは、本件事故による本件後遺障害のため、第五胸髄以下が完全に麻痺し、両下肢の自動運動は不能で、痙性が極めて顕著な状態であり、泌尿器官の機能が完全に脱失しているため、尿意、便意を感ずることができず、導尿器に頼つており失禁は不可避と思われるし、車椅子の使用による褥創の発生も深刻であること、通常の環境における完全な自立は不可能な状態であつて、将来前記の障害が回復する見込みはないことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) 右認定各事実を総合すると、原告みゆきは、本件後遺障害のため、本件症状固定日の昭和六三年七月二六日からその労働能力を一〇〇パーセント喪失し、したがつてまた、同人が将来就労によつて収入を取得する可能性も失なつたというべきである。

(3)(イ) 被告尾崎は、原告みゆきが本件事故以前に得ていた収入と本件事故後宮崎工芸で就労して得ている収入との間に減少が生じていないことを理由に、そもそも本件後遺障害による逸失利益は認められるべきではないし、仮にそうでないとしても、右就労状況に照して、原告みゆきが、本件後遺障害によりその労働能力を一〇〇パーセント喪失したものとは認め難い旨を主張している。

(ロ) そして、原告山崎みゆき本人、原告山崎勝子本人各尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告みゆきは、昭和五八年三月に高校を卒業してから、ベビーシツター、住み込みの手伝い、中古車センターの事務員等の業務に従事していたこと、その間の収入は、一か月当たり金一〇万円程度であつたこと、同人は、本件事故当時無職であつたものの、昭和六二年一二月一日から岡歯科医院に月給金一二万円で就労する予定であり、同歯科医院で就労しながら、歯科衛生助手の資格を取得するつもりであつたこと、同人は、現在は、神戸市内板宿にある宮崎工芸において就労し、宝飾品の修理業務(車椅子に座つたままで行う手作業)に従事し、一か月金一〇万円程度の収入を得ていることも認められる。

(ハ) しかしながら、右認定各事実が存在するからといつて、それから直ちに、被告尾崎が主張するように原告みゆきの収入が、本件後遺障害にもかかわらず減少していない以上右後遺障害による逸失利益は存在せず、あるいは仮にそうでないとしても、同人の本件後遺障害による労働能力の喪失が一部にすぎないと解することは相当でない。

その理由は、次のとおりである。

(a) 証人高田正三の証言、原告山崎みゆき本人、原告山崎勝子本人各尋問の結果によると、原告みゆきは、本件症状固定後、玉津福祉センターにおいて機能回復訓練を受け、引き続き平成元年四月一日から職業訓練学校で訓練を受け、平成二年三月同校を卒業して、同校の紹介により宮崎工芸へ就職したこと、同人が宮崎工芸において就労している目的は、同人において、身体障害者として残された機能を少しでも活用し、一日も早く社会復帰することが大切であると考え、自らを過酷な環境に置いていること、それ故にこそ、同人は、毎日午前六時に起床し、足が痙性のため上がる中を、食事も取らずに、時間をかけて、自ら着替え等の身支度をし、自動車を約一時間半運転して出勤していること、宮崎工芸では、午前八時三〇分から昼休みの休憩時間一時間をはさんで午後六時まで勤務(業務内容は、前記認定のとおり。)していること、右勤務終了後も自動車を約一時間運転した後、午後七時ころに帰宅すること、休みは日曜だけで土曜日も祭日も出勤していること、しかし、宮崎工芸における右就労も、いつまで続けられるか不確定であること、原告みゆきの本件後遺障害の内容からして、同人の年令の推移に伴い、同人の就労がいつまで続け得るか保障がないことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

なお、原告みゆきが宮崎工芸に勤務するようになつた前記認定の経緯からすれば、同人が右勤務先から得る前記収入は、福祉的意味合いも含まれていると推認できる。

右認定各事実を総合すると、原告みゆきの収入に本件事故の前後を通じての変更がないのは、同人において本件労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているからに外ならず、同人のこのような特別の努力がなければ、同人がたちまち無収入状態に陥るであろうことは、火を見るより明らかというべきである。

さらに、右説示に加え、右認定にかかる原告みゆきの本件事故前後における勤務業種の差異、同人の右事故後における就労の継続可能性の有無、同人が現在受けている収入の性質等をも総合すると、単に原告みゆきの収入額を本件事故前後で比較し、その間に変更がみられないとの一事から、直ちに、同人の本件後遺障害による逸失利益、あるいは同人の労働能力の喪失につき前記のとおり解するのは相当でないというべきである。

よつて、前記(3)(ロ)認定の各事実の存在は、原告みゆきの本件労働能力喪失に関する前記認定説示を何ら左右しないし、右認定説示に反する被告尾崎の主張も理由がなく採用できない。

(4) そして、原告みゆきの前記認定にかかる本件事故前における就労状況に照らすと、同人は、本件事故にあわなければ、本件症状固定時である昭和六三年七月二六日から六七歳に達する四三年間、少なくとも平成元年版賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者・新高卒・二三歳の平均賃金を得ることができたと推認されるところ、右平均賃金の年収は、年収額金二二一万三四〇〇円と認めるのが相当である。

(5) 右認定各事実を基礎として、原告みゆきの本件後遺障害による将来の逸失利益の現価額を年別新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり金五〇〇四万四九七四円となる(二二・六一〇は新ホフマン係数)。

221万3400(円)×22.610=5004万4974(円)

8  原告みゆきの慰謝料 金二二〇〇万円

前記認定の原告みゆきの受傷の内容、治療経過・入院期間、本件後遺障害の内容・程度、同人の年齢等諸般の事情を総合すると、原告みゆきに対する本件慰謝料は、金二二〇〇万円をもつて相当と認める。

9  以上1ないし8の認定に基づくと、原告みゆきの本件損害の合計額は、金一億二二六二万三〇六二円となる。

五  過失相殺

1(一)  抗弁事実のうち、本件事故の発生は、原告みゆきと被告尾崎との間に争いがなく、原告みゆきと被告黒田との間で本件事故の発生は、前記認定のとおりである。そして、その他右事故直前における交通状況、被告車の右事故直前における動向、被告黒田の過失の内容等も、前記認定のとおりである。

(二)(1)  前掲乙第二号証、第七、第八号証、第一一号証、第一六号証、原告山崎みゆき本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると(ただし、乙第八号証の記載中及び原告山崎みゆき本人の供述中、いずれも後記信用しない各部分を除く。)、次の各事実が認められる。

(イ) 本件事故現場道路は、大蔵谷インター方面(東方)から西明石方面(西方)へ通じる車道幅員八・四メートルの平坦なアスフアルト舗装道路であり、中央線により二車線(右事故現場附近では東行き車線の幅員四・三メートル、西行き車線の幅員四・一メートル)に区分されている。

右道路は、西行き車線及び東行き車線ともに、車線と歩道との間にガードレールが設置されており、西行き車線とその左側(南側)歩道との間に設置されているガードレールは、本件事故現場附近において、西行き車線から同車線左側(南側)の路外に存在する喫茶「みはらし茶屋」の敷地内への進入ができるように途切れている。

右事故現場は、市街地で、交通量は普通であり、夜間は照明により明かるい。

なお、本件事故現場附近道路における最高速度は、時速四〇キロメートルであり、追越しのための右側部分はみ出し禁止の交通規制がある。

(ロ)(a) 原告みゆきは、昭和六二年一一月二八日午後六時四五分ころ、原告車を運転し、本件事故現場道路の西行き車線の左端を、時速約三五キロメートルで西進し、本件事故現場の手前にさしかかつたところ、原告車に先行し、右車線のほぼ中央部を同一方向に走行中の被告車を認め、右車両に追尾する形で進行した。

(b) 被告車は、本件事故現場東方約三五・四メートル附近地点に至つた時左折の合図を出した。しかし、原告みゆきは被告車の右合図に気付かずそのまま原告車を進行させ、右事故現場附近に至つた時、被告車の左後方に追いつきかけた。被告車は、その時依然として車道のほぼ中央部を走行しており、被告車と車道左側にあつたガードレールとの間の距離は、約一・四メートルあり、自動二輪車であれば通行することが可能な幅であつた。

(c) 原告みゆきは、自車進路の右各状況から、被告車はそのまま直進するであろうから、被告車の左側方より右車両と右ガードレールの間を通り抜けて右車両を追い抜けると軽信し、被告車の左後方よりその左側方を通過しようとした途端、右車両が右事故現場の左側路外にある前記喫茶店に入るべく左折を開始したため、右車両と衝突し、本件事故が発生した。

(2) 右認定に反する前掲乙第八号証の記載部分及び原告山崎みゆき本人の供述部分は、前記(二)(1)冒頭掲記の各証拠と対比してにわかに信用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

2  右認定各事実を総合すると、本件事故の発生には、自動二輪車である原告車を運転していた原告みゆきが、被告車の左折の合図を見落していたうえ、被告車の左後方から被告車の左側方を通過するに当たり、被告車の動静を十分注意していなかつたという過失も寄与しているというべく、原告みゆきの右過失は、同人の本件損害を算定するに当たり斟酌するのが相当である。

3(一)  そして、右斟酌する原告みゆきの過失割合は、前記認定の本件全事実に基づき、二〇パーセントと認めるのが相当である。

(二)  そこで、原告みゆきの前記認定にかかる本件損害額金一億二二六二万三〇六二円を右過失割合で過失相殺減額すると、原告みゆきが被告ら各自に対して請求し得る本件損害額は、金九八〇九万八四四九円となる。

4  なお、不法行為における過失相殺は、当事者の主張がなくても裁判所の職権によりなし得ると解するのが相当であるから、本件事案に鑑み、被告黒田に対して請求し得る本件損害につき、同被告の主張がなくても、職権により過失相殺を認め、前記割合で減額をするのが相当である。

六  損害の填補 金二七一二万二四七五円

原告みゆきが、本件損害に関し、その填補として、被告尾崎の加入する任意保険から金二一二万二四七五円の、また、自賠責保険から後遺障害について金二五〇〇万円の各支払を受けたことは、原告みゆきと被告尾崎の間で争いがなく、弁論の全趣旨によると、原告みゆきと被告黒田との間においても、右填補の事実を認めることができる。

そこで、原告みゆきが受領した右金員を同人の本件損害に対する填補として、前記認定の損害額金九八〇九万八四四九円から控除すると、原告みゆきが被告ら各自に対し請求し得る本件損害額は、金七〇九七万五九七四円となる。

なお、本件損害の填補に関し、右認定説示を妨げるべき特段の事由の主張はない。

七  弁護士費用 金七一〇万円

前記認定の本件事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、金七一〇万円と認めるのが相当である。

八  第一事件関係の結論

以上の全認定説示に基づき、原告みゆきは、被告ら各自に対し、本件損害金七八〇七万五九七四円及び内金七〇九七万五九七四円(弁護士費用を控除した残額)に対する不法行為(本件事故)の日である昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求し得る権利を有するというべきである。

第二第二事件関係

一  原告一亮が原告みゆきの父であり、原告勝子が原告みゆきの母であることは、原告一亮及び原告勝子と被告尾崎との間で争いがなく、弁論の全趣旨によると、右事実は、原告一亮及び原告勝子と被告黒田との間においても認められる。

二  請求原因2(交通事故の発生)の事実は、原告一亮及び原告勝子と被告尾崎との間で争いがなく、右事実が右原告らと被告黒田との間においても認められることは、前記第一、一において認定説示したとおりである。

三1  被告黒田が過失により本件事故を惹起したこと及び右過失内容は、前記第一、二1において認定説示したとおりである。

2  被告尾崎が、本件事故当時被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

3  よつて、被告黒田には、民法七〇九条、七一〇条、七一一条に基づき(詳細は、後記認定説示のとおり。)、被告尾崎には、自賠法三条に基づき、両名連帯のうえ、原告一亮及び原告勝子が本件事故により被つた後記五の精神的損害を賠償する責任がある。

四  請求原因4(原告みゆきの本件受傷内容、入院期間及び後遺障害の内容・程度)の事実は、原告一亮及び原告勝子と被告尾崎との間で争いがなく、右各事実が右原告らと被告黒田との間においても認められることは、前記第一、三において認定説示したとおりである。

五  慰謝料 各金一〇〇万円

1  原告一亮及び原告勝子において、原告みゆきが本件事故により受傷し、重篤な後遺障害が残存したことにより、精神的苦痛を被つたことは、原告一亮及び原告勝子と被告尾崎との間で争いがなく、右事実は、原告山崎勝子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により、右原告らと被告黒田との間にも認められる。

2  原告一亮及び原告勝子は、原告みゆきの両親であるところ同人らが、被告らに対し、原告みゆきが本件事故により本件後遺障害を被つたことを原因として固有の慰謝料請求をなし得るかについては、同人らが原告みゆきが生命を害された場合にも比肩すべき、又は右場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けたときに限り、自己の権利として慰謝料を請求できると解するのが相当である(最高裁昭和四三年九月一九日第一小法廷判決民集第二二巻第九号一九二三頁参照)。

右説示に反する被告尾崎の主張は、当裁判所の採るところでない。

3  これを本件についてみるに、

(一) 原告みゆきの本件後遺障害の内容、同人の右障害に基づく現況等は、前記第一において認定したとおりである。

(二) 原告山崎みゆき本人、原告山崎勝子本人の各尋問の結果によると、原告一亮及び原告勝子は、原告みゆきの成長を楽しみに養育し、同人も健康で明るい女性に成長したこと、しかるに、原告みゆきは、本件後遺障害によつて第五胸髄以下の機能を全て失い、生涯車椅子による生活を余儀なくされ、将来、結婚して子供を産むことも極めて難しくなつたこと、原告一亮及び原告勝子は現在老齢であり、原告みゆきの将来を極めて憂慮していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) 右認定各事実を総合すると、原告一亮及び原告勝子は、原告みゆきの本件受傷による本件後遺障害の残存により、同人がその生命を害された場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたと認めるのが相当である。

よつて、右見地に則り、原告一亮及び原告勝子は、被告らに対し、右原告ら固有の慰謝料請求をなし得るというべきである。

4  しかして、前記認定の本件諸事情を総合すると、原告一亮及び原告勝子の本件慰謝料は、各金一〇〇万円をもつて相当と認める。

六  過失相殺

1  本件事故の発生には、原告みゆきの過失も寄与しており、その過失割合が二〇パーセントと認めるべきであることは、前記第一、五において認定説示したとおりである。

そうすると、原告みゆきの右過失は、いわゆる被害者側の過失として、その父母である原告一亮及び原告勝子の本件慰謝料額を算定するに当たつても、これを斟酌するのが相当である。

なお、原告らの被告黒田に対して請求し得る本件損害についても過失相殺がなし得ることは、前記第一事件において説示したとおりである。

2  そこで、原告一亮及び原告勝子の前記認定にかかる本件慰謝料各金一〇〇万円を右過失割合で過失相殺減額すると、原告一亮及び原告勝子が被告ら各自に対して請求し得る本件慰謝料額は、各金八〇万円となる。

七  第二事件関係の結論

以上の全認定説示に基づき、原告一亮及び原告勝子は、被告ら各自に対し、本件慰謝料各金八〇万円及びこれに対する不法行為(本件事故)の日である昭和六二年一一月二八日から右各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を請求し得る権利を有するというべきである。

第三全体の結論

一  第一、第二事件各関係の結論は、前記認定説示のとおりである。

二  よつて、原告らの本訴各請求は、右認定の限度でそれぞれ理由があるから、いずれもその範囲内でこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから、これらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助 三浦潤 亀井宏寿)

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